「役員の家族旅行費」を会社経費に計上していた場合、税務調査で否認されるのは珍しくありません。しかし、否認=必ず重加算税ではありません。本記事では、否認の法的根拠、重加算税(仮装・隠ぺい)が問題となる局面、そして実務で取り得る回避・軽減策を税理士の視点で整理します。
重加算税とは、本来払うべき税額の35%(無申告は40%)を罰金として支払うものです。実際は地方税(事業税)にも課され、延滞税など諸々あわせると税率はもっと上がります。この罰金はもちろん経費で落ちません。
重加算税をもらってしまうと会社はブラックリスト入りで、頻繁に税務調査が来るようになります。前科がつくようなものですので甘く見てはいけません。
目次
1. なぜ家族旅行費は否認されるのか
- 損金算入の前提:法人税法上、会社の業務遂行上必要な支出のみ損金算入が可能。
- 家族旅行費の位置づけ:私的性質が強く、原則として役員の私費(役員給与・役員賞与相当)または交際費の対象外と判断されやすい。
- 否認の結果:法人税等の追徴(更正・決定)+加算税・延滞税の賦課。
2. 重加算税の要件と判断ポイント
重加算税は、単なる計上誤りではなく「仮装・隠ぺい」があった場合に賦課されます(国税通則法の枠組み)。実務上の判断ポイントは次の通りです。
- 虚偽の書類作成の有無:実態は家族旅行なのに、研修報告書・出張命令書・参加者名簿等を虚偽作成して体裁を整えていないか。
- 虚偽の説明の有無:取引先同行や打合せの事実がないのに、調査で虚偽供述をしていないか。
- 隠匿の有無:証憑の破棄・改ざん、勘定科目の仮装(福利厚生費・会議費・旅費交通費に偽装)などの組織的隠ぺいがないか。
ポイント:上記が認められない限り、一般に「過少申告加算税(10〜15%)」等にとどまり、直ちに重加算税とはなりません。
3. 事例で理解:重加算税になる/ならない
(A)重加算税になりやすいケース
- 実態は家族旅行なのに「全日程を研修」とする虚偽の研修報告書を作成。
- 取引先不在にもかかわらず「得意先同行」と虚偽申告。
- 私的支出を避けるため複数勘定科目に分散・仮装し、証憑の一部を破棄。
(B)重加算税まで課されにくいケース
- 家族旅行を「旅行費」等として正直に計上(業務費と偽っていない)。
- 虚偽の報告書作成や虚偽供述はなし。結果として損金不算入となるが、誤りの範囲にとどまる。
- 一部に業務が含まれる場合、参加者・日程・議題が残っており、業務相当分のみ経費、家族分は役員給与へ区分是正。
重加算税の鍵は仮装・隠ぺいの有無。虚偽書類の作成・虚偽供述・証憑隠匿があるかどうかが分かれ目です。
4. 回避・軽減のための実務対応チェックリスト
- 私的支出を業務費に仮装しない(福利厚生費・会議費・旅費への「偽装」禁止)。
- 虚偽の研修報告書を作らない(事実に合わない資料は作成・保管しない)。
- 業務実態の記録(もし業務を含むなら、参加者・議題・打合せメモ・相手先確認を残す)。
- 区分経理(業務分のみ経費に計上。家族分は役員給与として処理)。
- 自主是正(調査前に誤りに気づいたら修正申告を検討。加算税軽減あり)。
- 調査対応の一貫性(説明は事実ベースで統一。質問記録書に不正確があれば訂正申し入れ)。
5. 実務処理:仕訳の是正と役員給与認定
(1)家族分の費用を役員給与へ振替
(誤)旅費交通費(または福利厚生費) ××× / 現金・預金 ×××
(正)役員給与 ××× / 旅費交通費(等) ×××
※ 調査で否認された場合、損金不算入(役員給与扱い)として更正されるのが一般的です。
(2)一部業務・一部私的の場合の区分
- 旅程・参加者・議題をベースに合理的按分(例:業務日/総日数、参加者比率など)。
- 按分根拠を紙で残す(日程表・議事メモ・メール往復等)。
(3)事前是正(修正申告)の活用
- 調査着手前に誤りを認識したら、自主修正の検討(加算税軽減)。
- 調査開始後でも、仮装・隠ぺいなしを基調に、正確な是正へ。
6. よくある質問(FAQ)
- Q1. 家族同行だが、一部で実際に取引先と会議をした。全額否認?
- 全額否認とは限りません。業務部分の実態(参加者・議題・成果)を示せれば、合理的按分により業務相当分のみ損金算入の余地があります。家族分は役員給与へ区分を。
- Q2. 否認=重加算税ですか?
- 違います。仮装・隠ぺい(虚偽書類・虚偽供述・隠匿)が認定される場合に重加算税の対象となります。単なる計上誤りは通常、過少申告加算税にとどまります。
- Q3. 調査で提示された「質問記録書」に署名しないといけない?
- 署名押印は任意です。内容に誤りがあれば訂正・追記を求めることができます(署名強制の法的根拠はありません)。納得いかない内容がある場合には署名しないこと。
- Q4. 今からできる最小アクションは?
- (1)私的費用の洗い出し、(2)業務実態の裏付け収集、(3)必要に応じた修正申告の検討です。虚偽の整合資料を作らないことが最重要です。
まとめ
- 家族旅行費は原則損金不算入で否認対象。
- しかし否認=重加算税ではない。重加算税は仮装・隠ぺいが前提。
- 回避・軽減には、虚偽資料を作らない・区分経理・自主是正が有効。
具体的な状況・証憑の有無で結論は変わります。個別事情を踏まえた対応が必要な場合は、税理士にご相談ください。
税理士/元資格の大原法人税法非常勤講師(2019年~2024年の5年間)
1982年生まれ
平成31年3月 税理士登録
2021年3月に独立 筒井一成税理士事務所を川崎市宮前区にて開業
2024年3月 事務所を世田谷区等々力に移転
現在世田谷区等々力を拠点として活動中。主に法人の顧問や相続のご相談をお受けしています。
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