目次
概要
創立費や開業費は「繰延資産」といって、一旦は帳簿に資産として計上し、その後一定期間(5年又は3年など)にわたって経費にしていくというものです。
ただし、例外的に、任意で経費にする金額や、経費にする年度を自由に選んだりできるので、節税として、たとえば赤字のうちは経費にしないでおいて将来の黒字が出たときに一気に計上するというような使い方もできます。
創立費と開業費
創立費とは
創立費とは、会社の設立登記がされる前に支出した会社の設立に係る費用の事です。たとえば次のような費用をいいます。
- 定款及び諸規則作成のための費用
- 株式募集その他のための広告費
- 創立事務所の賃借料
- 設立事務に使用する使用人の給料
- 設立登記の登録免許税等 など
開業費とは
開業費とは、開業日までにかかった開業準備のための費用をいいいます。
法人であれば設立登記日から開業までの期間に支出したものをいいます。
個人事業主であれば開業届の開業日までの支出をいいます。
具体例
- 土地、建物等の賃借料
- 広告宣伝費
- 通信費・交通費
- 事務用消耗品費
- 借入金の利子
- 使用人の給料
- 保険料
- 電気・ガス・水道料等 など
個人事業主の場合は、開業前のこれらの費用を「開業費」として経費にすることができますが、法人の場合には、土地建物等の賃借料、使用人の給料、保険料、借入金の利子、電気・ガス・水道料等経常的な経費(毎月定額で発生するようなもの)は開業費とすることができないことになっていますので注意が必要です。それぞれ期間費用になりますのでその年度(第1期目)の経費にはなります。(地代家賃、給与手当、保険料、支払利息、水道光熱費等)
開業費とならないもの
次のような費用は開業費にすることができません。
棚卸資産・固定資産
資産を取得するために要する費用は開業費になりません。商品仕入や原材料仕入などの棚卸資産を取得する費用も開業費にはなりません。
また、建物や建物附属設備(内装工事など)などの固定資産を取得するための支出も開業費にはなりません。これらは減価償却の対象としなければなりません。
減価償却については以前の記事「法人の減価償却について」で詳しく書いています。
ただし、10万円未満(青色申告者である中小企業者の場合は30万円未満も可)の固定資産は、金額の重要性から、消耗品費などの勘定科目を使用して支出年度に全額経費にすることも可能です。
前払費用
家賃の前払分など、翌年度以降の期間分に対応するものなどは、開業費にすることはできません。
敷金や保証金など返還されるもの
最終的に返還される敷金や保証金は、単なる預け金なので、そもそも経費ではありませんし、開業費にすることはできません。
貸借対照表の投資その他の資産に「敷金」や「差入保証金」などの勘定科目で資産計上します。返還されたときに貸借対照表から消えます。
差入保証金のうち、契約で「20%を償却(返還されない)する」などとなっている場合には、その20%部分は返還されないので繰延資産になります。返還されない部分は税法上の繰延資産になりますので、後述する均等償却で各年にわたり経費化することになります。
開業費にも創立費にも該当しない費用の取り扱い
設立登記前の費用で、会社の設立に係る創立費以外にも費用が掛ることがあります。たとえば、設立前でも法人の名前を使って営業を行ったりすることもあります。その際に支出した交際費・会議費・インターネット代など諸々の経費などです。
これらの費用は設立登記時に係る費用ではないので創立費にはなりませんが、法人税基本通達というところで、法人の設立登記前に発生した経費は設立1期目の経費に入れても良いということを定めています。
(法人税基本通達の2-6-2)
「法人の設立期間中に当該設立中の法人について生じた損益は、当該法人のその設立後最初の事業年度の所得の金額の計算に含めて申告することができるものとする。」
ただし、例外として、次のような場合は適用されません。
- 設立期間がその設立に通常要する期間を超えて長期にわたる場合(設立登記をしないで放置されている場合。)
- 個人事業を引き継いで設立されたものである場合(いわゆる法人成り)
設立が長期にわたる場合や登記されず放置されている場合は、設立されるまでの期間は人格のない社団等として別個に法人の確定申告をする必要があります。また、法人成りの場合は、設立までに発生した費用は個人事業主の方の経費として取り扱うことになります。
繰延資産の償却方法
繰延資産を経費にする方法(償却方法)には次の2つの方法があります。
- 任意償却
- 均等償却
任意償却とは
任意償却とは、「会社法上」の繰延資産に認められている方法です。
会社法上の繰延資産は次の5つです。
- 創立費
- 開業費
- 開発費
- 株式交付費
- 社債等発行費
会社法のルールはこれらの繰延資産を5年又は3年で償却してほしいという願いがあるのですが、税法のルールはこの5つの種類の繰延資産に限っては、自由にいつでもいくらでも償却してもいいことになっています。中小企業であれば税法のルールを適用して全く問題ありません。
均等償却とは
均等償却とは、税法上の繰延資産に該当する場合には強制される償却の方法です。
こちらは会社法上の繰延資産と違って、自由にいつでもいくらでも経費にするということはできません。
税法独自の繰延資産
- 自己が便益を受ける公共的施設又は協同的施設の設置又は改良のために支出する費用
- 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立退料その他の費用
- 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
- 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
- 上記に掲げる費用の他、自己が便益を受けるために支出する費用
会社法上の繰延資産には該当しませんが、これらの費用は支出の効果が1年以上に及ぶものとなるため、支出年度で経費にすることができません。
具体例
例えば、建物を賃借するために支出する権利金(借家権利金)や、礼金、更新料などがあります。
償却限度額の計算
均等償却になった場合、当年度に経費にできる限度額は次の算式で計算します。
(算式) 繰延資産の額 × 当期の月数(注1)/ 償却期間(注2)
(注1)支出事業年度の場合は支出日から当期末までの月数
(注2)償却期間は支出の効果の及び期間で償却します。償却期間は繰延資産の種類ごとに定められています。繰延資産の償却期間(国税庁)
損金経理要件あり
法人の場合には損金経理要件といって、決算で帳簿に「繰延資産償却」など勘定科目を使用して費用処理をしていないと経費に入れることができません。
少額繰延資産の特例
均等償却の繰延資産で、支出金額が20万円未満のものについては全額支出年度の経費にすることができます。(一つの契約ごとに判定します。)
まとめ
以上、開業費になるものならないものについて解説しました。
法人と個人で開業費の範囲が異なるので、その点は注意しなければなりません。
会社法上の繰延資産は任意償却なので自由に償却できますが、税法独自の繰延資産に該当する支出の場合は均等償却として自由に償却できなくなりますのでご注意ください。
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この記事を書いた人
税理士/ファイナンシャル・プランナー/元資格の大原法人税法非常勤講師(2019年~2024年の5年間)
1982年生まれ
平成31年3月 税理士登録
2021年3月に独立 筒井一成税理士事務所を川崎市宮前区にて開業
2024年3月 事務所を世田谷区等々力に移転
現在世田谷区等々力を拠点として活動中。主に法人の顧問や相続のご相談をお受けしています。
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