法人が寄付金を支出した場合の税務処理

筒井一成

法人は営利目的で存在していますので、相手にお金を「ただ」であげたり、無料でサービスを提供したりすることは基本的にはないはずです。ほとんどの取引は有料で、お金のやり取りが発生するかと思います。

一方で、災害時に被災地に無料で支援物資を送ったり、会社の名前でお寺や神社に寄付することもあります。

こういった場合の支出が、法人税で損金(経費)になるのかならないかが問題になることがありますので、この点について解説していきます。

税務上の寄付金とは

法人税法で寄付金の額は、

「寄付金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、次の価額をいう。」と規定しています。

「次の価額」というのは、いくらになるか?ということなのですが、お金をあげたらその金銭の額、お金以外の資産だったらその資産の時価、サービスだったらそのサービスの時価が寄付金の額ということです。

その他いずれの名義をもってするかを問わずと規定されていることから、支出内容が寄付金の性質ならば税務上は「寄付金」として扱われることになります。勘定科目は問わないので、帳簿に「雑費」や「交際費」と会計処理を行ったとしても、後で税務調査で「寄付金ですね」といわれる可能性もあるわけです。

ただし、「広告宣伝費、見本品費その他これらに類する費用、交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。」とも規定されていますので、いわゆる売上に対応する営業経費になるものは寄付金から除かれています。

寄付金は原則として損金にならない

法人は営利目的で存在しているので、ただで相手にお金をあげるという行為は正常な取引とはいえない部分がありますので経費にすべきものではないですが、一方で事業に必要な寄付もあるということで、一定の寄付金の限度額を法人税で定めています。

この定めた限度額を超える部分を損金に認めない取り扱いになっています。

寄附金とされず損金となるもの

不特定多数の被災者を救援するための自社製品の提供など

(例)カップラーメンの会社が、災害で被災地に支援物資として会社名入りのカップラーメンを寄付した場合は寄付金にならず損金となります。広告宣伝に近いものと考えられます。

子会社を整理する場合の損失負担など

(例)子会社に対して寄付した場合、寄付金の額になるのが原則ですが、今子会社を助けないと後々費用がかさんで、結局親会社がその損失を負担するような状況であれば、子会社を助けるための負担金は寄付金とされません。いわゆる「支援損」として損金となります。

寄付金の3つの区分

寄付金の内訳を、公共性が高いものから低いものとして、指定寄付金、特定寄付金、その他の寄付金(一般寄付金)の3つに区分します。指定寄付金は公共性が非常に高く、その他の寄付金は公共性は低いです。特定寄付金はそこそこ公共性があります。

指定寄付金等

次のような寄付先に寄付した場合には指定寄付金等となります。国や地方公共団体など、国そのものに寄付をした場合には、本来国が負担すべきものを会社が払ったという考え方になりますので全額損金になります。

国等に対する寄付金
  • 国や地方公共団体に対する寄付
  • 国立大学法人や公立大学法人に対する寄付
  • 被災者に対する義援金 など
指定寄付金
  • 各都道府県共同募金会が行う共同募金(赤い羽根)
  • 中央共同募金会
  • 日本赤十字社に対するもので財務大臣の承認を受けるもの
  • 独立行政法人日本学生支援機構に対する学資の貸与 など

被災者に対する義援金は、直接国などに相手先が日本赤十字社等であっても、最終的に義援金配分委員会などに対して拠出されるものに限ります。

指定寄付金を経費とするには、確定申告書にその金額を記載し、寄付金の明細書など所定の書類を添付するとともに、所定の書類を保存している必要があります。寄付の相手先から寄付金の明細書(証明書や領収書)が発行されますので、大切に保管しておくようにしましょう。

特定公益増進法人等に対する寄付金(特定寄付金)

特定寄付金とは

公共性が高い寄付なので、全額経費とまではいきませんが、特定寄付金の合計額と特別損金算入限度額のいずれか少ない方が損金となります。

次のような寄付先に寄付した場合には特定寄付金となります。

  • 独立行政法人(国立研究開発理化学研究所、独立行政法人日本学生支援機構など)
  • 地方独立行政法人に対する一定の業務に係る寄付(試験研究、病院、社会福祉など)
  • 自動車安全運転センター
  • 日本赤十字社
  • 公益社団法人、公益財団法人
  • 認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)
  • 認定特定公益信託の信託財産の拠出
留意点
  • 独立行政法人日本学生支援機構に対する寄付金は、学資の貸与であれば「指定寄付金」、独立行政法人日本学生支援機構が使う事業経費などのためであれば「特定寄付金」に分かれるので注意が必要です。
  • 日本赤十字社も同じように、義援金や財務大臣指定の場合には「指定寄付金」ですが、日本赤十字社が使う事業費のための寄付は「特定寄付金」になります。
  • 海外の災害で最終的に日本赤十字社に拠出される場合は「特定寄付金」となります。
特定寄付金を経費とするには、指定寄付金と同様に確定申告書にその金額を記載し、寄付金の明細書など所定の書類を添付するとともに、所定の書類を保存している必要があります。
特定寄付金の限度額の計算式

普通法人、協同組合等および人格のない社団等の場合

〔(資本金の額および資本準備金の額の合計額または出資金の額)×当期の月数を12で割った数×1,000分の3.75+所得の金額×100分の6.25×2分の1=〔特別損金算入限度額〕

赤文字部分が後述するその他の寄付金(一般寄付金)と異なる部分です。

その他の寄付金(一般寄付金)

その他寄付金とは

指定寄付金、特定寄付金のいずれにも該当しない寄付金をいいます。

例えば実務上出てくるものとして次のような相手先に対する寄付金です。

  • 町内会の祭費用(会費は経費です)
  • 政治団体
  • 神社・寺
  • 宗教法人
  • その他
その他の寄付金(一般寄付金)の限度額の計算

その他の寄付金の限度額は次の算式で求めます。一般寄付金限度額までが損金となります。

計算式が複雑です。実際に数字を入れてやってみるとわかるのですが、資本金と所得が小さい場合、ほんの少ししか経費にできないという構造になっています。

①普通法人、協同組合等および人格のない社団等の場合

〔(資本金の額および資本準備金の額の合計額または出資金の額) ×当期の月数を12で割った数×1,000分の2.5+所得の金額×100分の2.5×4分の1=〔損金算入限度額〕

その他の寄付金を経費とするには、指定寄付金や特定寄付金のような「確定申告書にその金額を記載・寄付金の明細書など所定の書類を添付・所定の書類を保存」の手続の要件はありませんが、損金不算入の計算をするためには確定申告書にその金額を記載する必要があります。

寄付金が給与とみなされることがある

役員が個人的に支出すべきもの(プライベートな支出)を会社が寄付金として支出した場合は、たとえ会社が寄付金として経理していたとしても、役員に対する給与とされます。(例えば役員の息子の入学金を会社から支払った場合など)

役員に対する給与は、毎月定額など一定のものでない限り経費には認められませんので、結果的に給与となっても経費には認められないことになってしまいます。役員給与については過去の記事「役員給与は経費になるのか」でも詳しく解説しています。

物をあげたりタダでサービスをすると寄付金となる

お金をただであげたら贈与になり、つまり、寄付金というのはイメージできると思いますが、お金ではないモノをあげても寄付金となります。お金以外の贈与(寄付)の場合、次の金額が寄付金とされます。

資産の贈与

例えば時価100万円の車をただであげたら、100万円が寄付金の額となります。

つまり、贈与資産の時価相当額が寄付金の額となります。

資産の高価買入

(例)時価100万円の車を150万円で買った場合は、50万円が寄付金の額となります。

なぜなら50万円は、時価よりわざわざ高いお金を払っており、相手が得をしている部分なので、相手に贈与をしたことになるからです。

つまり、対価(払った額) ― 時価 が寄付金の額となります。

資産の低額譲渡

(例)時価100万円の時計を50万円で買った場合、時価より安く売ったので差額の50万円が寄付金の額となります。

つまり、時価 - 対価(払った額) が寄付金の額となります。

法人税の場合、時価より1円でも低い場合はこの低額譲渡になりますので注意が必要です。時価の考え方がむずかしいですが、一般的には、全く利害関係のない第3者に売るとしたらいくらになるかが時価の考え方です。親族の会社や知り合いなど利害関係者に売るときの値段は当てにならないからです。

経済的な利益の無償の供与

(例)時価10万円のサービスをただでやった場合は、10万円が寄付金の額となります。

(例)貸付金などの債権100万円を、相手の財政状態も問題ないにも関わらず、特に理由もなく返さなくていいよと放棄した場合、100万円が寄付金の額となります。

(例)貸付金の利息を10万円とるべきなのに、とらないでただで貸し付けている場合は10万円が寄付金の額となります。

債権放棄については、回収不能に相当の理由があった場合には、貸倒損失として経費になります。貸倒損失とするためには税務上は回収不能かどうかの判断基準に一定の厳しい要件があります。

経済的な利益の低額の供与

(例)時価10万円のサービスを5万円でやった場合です。サービスの低額譲渡ということです。

(例)貸付金の利息を10万円とるべきなのに、ただ同然の非常に低い利率で貸し付けている場合はとるべき10万円と実際取った低い利息との差額が寄付金の額となります。

寄付金の損金算入時期

寄付金は、実際の現金支出をして初めて寄付金の額となります。寄付金を未払金で計上している場合には寄付金の額には含まれません。つまり、現金支出があるまでは寄附金の損金算入限度額計算の中に入れません。

国内・国外のグループ会社に対する寄付

100%グループ会社に対する寄付金

法人による完全支配関係がある他の法人に支出した寄付金の額は全額が経費になりません。

完全支配関係とは、株式の所有割合100%の間柄など一定の関係をいいます。

反対に、寄附金を受け取った相手方の会社は受贈益となりますが、全額が課税対象から除外されます(受贈益の益金不算入といいます)

国外関連者に対する寄附金

法人が、国外関連者に対する寄付金を支出した場合には、全額が経費になりません。

国外関連者とは、法人と次の関係にある外国法人をいいます。

  • 発行済株式(自己株式を除く)の50%以上を直接又は間接に保有し又は保有される関係 など

まとめ

以上、寄付金について解説しました。

簿記会計の寄付金と法人税の寄付金は異なります。支出内容をしっかり確認したうえでの処理を行わないと後日税務調査で寄付金とされてしまった場合、修正申告が必要になってしまいますので処理をする際には気を付けましょう。

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