相続税申告は自分でできるか?

筒井一成

相続に関する手続きは難しいので専門家にお願いされる方も多いですが、結構な費用がかかることから自分で申告はできないものか?と思われる方もいらっしゃるかと思います。私の主観ではありますが、判断基準についてお話させていただきたいと思います。

結論

土地や建物を複数所有していたり、会社経営をしていたなど、株式(特に非上場株式)があったりすると、評価方法が複雑であるためご自身でやるには相当な労力がかかるかと思います。相続人が多い場合は相続人全員の戸籍の収集もかなり大変な作業です。

相続人が少なく「現金預金と自宅のみ」のようにシンプルであれば自分で申告は十分可能かと思います。

相続税とは

相続税とは、故人が有していた遺産に対してかかる税金で、相続税を支払うのは残された家族が支払います。

故人のことを「被相続人」といい、相続する人を「相続人」といいます。

相続人は「民法」という法律で定められていて、相続することができる人を決定する際には、優先順位が決められています。

相続税の対象となるもの

現金預金、土地(借地権を含む)、家屋などの不動産、株式、貴金属、書画、骨董品、自動車、貸付金などの金銭債権などです。要するに金目の物にはかかるということです。

相続税の対象となる金額は、これらすべての「時価」です。

金銭は、そのままの金額が時価なので迷うことはありませんが、金銭以外の他の財産は価値を自分で算定して申告書に記載する必要があります。これを「財産評価」といい、相続税の申告の難しさはこの「財産評価」の方法が複雑で多岐にわたることが原因です。

法律的には相続により受け取ったものではないのに相続税がかかるものとして、故人が保険料を負担していた「生命保険金」や、故人の会社から遺族に支給される「死亡退職金」なども「みなし相続財産」として課税の対象となります。

相続の順位

次の順番で相続人が決定されます。第一順位がいれば、そこで終了、第一順位がいない場合、第2順位がいる場合は第2順位が相続人になる、ということです。

第1順位の相続人

配偶者、子

配偶者は常に相続人になります。子は実子と養子、結婚している男女の間の子、結婚していない男女の子での区別はありません。子であれば平等に第1順位の相続人です。
子が先に亡くなっている場合は?

亡くなった子に子がいる場合(つまり故人からみて孫)は、子から孫に相続権が移ります。これを代襲相続といって、孫→ひ孫と下に降りていきます。ただし、故人の兄弟が相続した場合は、孫、ひ孫までは降りません。代襲するのは1回きり。つまり、「おい、めい」までとなります。

第2順位の相続人

直系尊属

故人に子がいない場合、故人のお父さん・お母さんが相続人になります。直系尊属であれば、実父母、養父母との区別による差はありません。
父母の両方がすでに亡くなっていたら?

さらに上に遡っていきます。その上のおじいちゃん・おばあちゃんに相続権が移ります。ただし、お父さんお母さんのどちらか片方がご存命であれば、お父さん・お母さんのどちらかが相続人になり、おじいちゃんおばあちゃんが相続人になることはありません。

第3順位の相続人

兄弟姉妹(けいていしまい)

第1順位と第2順位がいない場合には、故人の兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟で取り分が違う場合がある?

兄弟姉妹には。両親を同じくする「全血兄弟姉妹」と、父母の一方だけを同じくする「半血兄弟姉妹」があります。いずれも相続人になりますが、財産の取り分が異なります。半血兄弟姉妹の相続分は、全血兄弟姉妹の相続分の2分の1となります。

財産の調査や必要書類の収集

相続税の申告にあたっては、相続人を確定するために戸籍の収集をしたり、故人の財産と債務を把握するために銀行の残高証明書や証券会社の残高などを確認するなどの財産調査を行います。債務は故人の借用書などを自宅から探す必要があります。

財産調査や必要書類の収集が非常に大変で、ゆっくりしてるとあっという間に相続税の期限がきてしまいますので早めに行動する必要があります。

相続税の申告書

故人がなくなった場合、財産が基礎控除以下である場合等を除き、相続人は相続があったことを知った日の翌日から10か月以内に税務署に対して相続税の申告書を提出しなければなりません。

相続税の申告書には、第1表から第15表まであり、付表なども含めると約60種類の様式があります。もちろんこれらを全部使う訳ではありません。遺産の種類や適用を受ける税額控除がある部分だけを記載していくことになります。

一般的によく使用される申告書は次のようなものです。

第1表・・・相続税の申告書

課税価格(相続税の課税対象となる金額)、相続税額を記載します。

第2表・・・相続税の総額の計算書

相続税額を各人に割り振る前の相続税の総額を計算します。

第4表・・・相続税額の加算金額の計算書

財産を受け取った人が「故人の配偶者及び1親等の血族以外の人」であった場合、相続税が2割加算されます。俗に2割加算などとよばれます。

第4表の2・・・暦年課税分の贈与税額控除額の計算書

財産を受け取った人が、相続開始前3年以内に故人から贈与を受けていた場合には、今回の相続税に加算することになってしまいます。贈与は暦年贈与に限りますので、相続時精算課税制度を選択している贈与はここには記載しません。

第5表・・・配偶者の税額軽減額の計算書

配偶者が財産を受けとっても、多くの場合配偶者に相続税は発生しません。

配偶者の税額軽減といって、配偶者が取得した財産が全体の2分の1以下又は1億6千万以下の場合には配偶者に相続税は発生しません。

配偶者が亡くなった場合の2次相続の場合には、配偶者の税額軽減が使えないので、2次相続の相続税のシュミレーションを行い、トータルで安くなる方法を検討することも大事です。

第6表・・・未成年者控除額・障害者控除額の計算書

財産を受け取った人が未成年者(令和4年4月1日以後は18歳)の場合や障害者に該当する場合には一定の控除を受けられますのでその場合に記載します。

未成年者控除額:10万円×(18歳―未成年者の相続開始時の年齢(1年未満切捨))
障害者控除額:10万(特別障害者20万)円×(85歳―障害者の相続開始時の年齢(1年未満切捨))

※上記2つは控除しきれない場合は扶養義務者から控除できる取り扱いもあります。

第7表・・・相次相続控除額の計算書

父が亡くなり、立て続けに母が亡くなった場合など、同じ財産に何回も課税がされてしまうことを防止するために「相次相続控除」という控除が認められています。2次相続までの間が10年以内の場合には、払う税額から一定額が控除されます。

相次相続控除額:A×C/(B―A)【1を超えるときは1】×D/C×(10-E)/10

A:今回の故人が前の相続の際に課せられた相続税額

この相続税額は、相続時精算課税分の贈与税額控除後の金額をいい、その被相続人が納税猶予の適用を受けていた場合の免除された相続税額ならびに延滞税、利子税および加算税の額は含まれません。

B:今回の故人が前の相続の際に取得した純資産価額(取得財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額-債務および葬式費用の金額)

C:今回の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額

D:今回のその相続人の純資産価額

E:前の相続から今回の相続までの期間(1年未満の期間は切り捨てます。)

その他の帳票

  • 第8表・・・外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書
  • 第9表・・・生命保険金などの明細書
  • 第10表・・・退職手当金などの明細書
  • 第11表・・・相続税がかかる財産の明細書(相続時精算課税適用財産を除く)
  • 第11・11の2の付表1・・・小規模宅地等についての課税価格の計算明細書
  • 第13表・・・債務及び葬式費用の明細書
  • 第14表・・・純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額及び特定贈与財産価額・出資持分の定めのない法人などに遺贈した財産・特定の公益法人などに寄附した相続財産・特定公益信託のために支出した相続財産の明細書
  • 第15表・・・相続財産の種類別価額表

まとめ

以上、相続税申告は自分でできるか?について、必要書類なども交えて解説しました。
書類を集めたり金額の集計をするのが苦でない方でしたら相続税の申告書を提出することは可能ですが、その申告内容が正しいかどうかの不安は残ってしまうというのがデメリットではあります。(相続税は税務調査が入りやすいので)

自分でできるかの判断については、故人がどのような財産をお持ちになっていたかによっても変わってくるかと思います。ご自身でチャレンジしてみて、無理だなと思ったら専門家に相談するということで良いと思いますが、その判断は早めにした方がいいと思います。

申告期限ギリギリに持ち込んでも、断られたり、加算料金が発生したりする場合があるためです。

2次相続のシュミレーションを行うことでトータルで大きな差が出る場合がありますので、財産が多い場合は税理士などの専門家に依頼したほうが結果的には安く済むことも実際にあります。

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